2009年11月17日

オバマ大統領のアジア演説

 11月14日の午前10時から開かれたオバマ大統領の演説会に、私もホワイトハウスから招待されました。オバマ大統領は前日の午後に日本に到着され、夕方に鳩山総理と会談をされました。その夜に鳩山総理がシンガポールのAPECの会合に発たれた後、半日ほど日本に滞在をされ、14日の午前中にできるだけ多くの日本を代表する政財界人、知識人、そしてメディアの人々を相手にアジア戦略に関する自分の意見を開陳したいということで演説をされました。

 普段はオーケストラが演奏会を行うサントリーホールのステージの上には日米の両国旗が背景に飾られ、オバマ大統領の演説台には大統領のエンブレムが飾られるという、いかにもアメリカらしい華やかな雰囲気の会場が設えられました。

 オバマ大統領は軽やかに、そして颯爽と会場に現れ、観客席ににこやかに手を振り、演説を始められました。私もオバマ大統領の演説はテレビでは何度も見ていましたが、実際に聴くとごく普通の口調であったことが印象的でした。

オバマ大統領のアジア演説01

 アジア歴訪の最初の場所を東京に選んだという内容から始まりました。実は、オバマ大統領は少年の頃に一度母親に連れられて鎌倉を訪ねたことがあったそうです。しかし少年の記憶に残っていたのは大仏よりもそのときに食べた抹茶アイスクリームであったとのことですが、「昨日、鳩山総理の夕食会に招かれたときにはもっとたくさんアイスクリームを食べることができた」と言って皆を笑わせました。また小浜市の市民が来ていることも念頭に置き「小浜市の皆さん、ありがとう」などと愛嬌を振りまいていました。

 オバマ大統領の演説は20分ほどでしたが、まず日米の同盟関係がいかに重要かということを強調され、現在、懸案になっている沖縄の普天間基地の移転問題については「特別委員会をつくって早急に解決をみたい」と言明されました。そして、「アメリカと日本は太平洋を隔てて地理的には遠い関係にあるが両国の関係は切っても切れない深い結びつきで繋がっており、特にアメリカはアジアを重視し、太平洋国家としてアジア戦略を誠意をもって進めたい」と強調されました。また、「中国の成長は脅威ではなく、アメリカを始め他の国々と一緒に努力をすることでパイを増やし、より繁栄した世界を築くことができる」というポジティブな見方を強調されました。

 そして「アメリカはこれまでよりはるかに熱心に、APECはもとよりASEAN諸国やG20、G8など様々な国際ネットワークに最大限の関わりをもっていく」と強調され、「特にその中では、日本の果たす役割もきわめて大きいだろう」と日本を持ち上げてみせました。
地球環境問題に深く関わっていきたい、核廃絶したい、あるいは世界の人権問題の解決のために全力を尽くしていきたい、世界の国々が協力すればどのような難問も乗り越えていけるというオバマ流の考え方、すなわち「私たちは人々の協力によって世界史をよい方向に変えることができるのだ」というメッセージで演説を結ばれました。

 演説の際にオバマ大統領の左右にはプロンプターが掲げられていましたが、殆どプロンプターに目をやることはなく、誰が聞いてもわかりやすい明確な表現で流暢に話を終えられ、サントリーホールをうめた1,500人の聴衆はスタンディングオベーションで大歓迎の意を表しました。さすがにアメリカの激しい選挙戦を通じて選ばれたアメリカの歴史を変えようとしている大統領ならではと思いました。オバマ大統領の印象を一言で表すと「さわやかなオーラの人」でした。

オバマ大統領のアジア演説02
(オバマ大統領のパンフレット/米国大使館編集・発行)

 実はこのオバマ大統領がアジア演説を実現する上で、私にはある特別な関わりがありましたので、このブログでご紹介させていただきます。

 私は現在、日本フィルハーモニー交響楽団の理事長をしておりますが、この11月14日の午前中のオバマ大統領が演説をされた時間は午後から定例のオーケストラの演奏会を開く、日本フィルハーモニー交響楽団のリハーサルの時間でした。

 1週間ほど前に、ホワイトハウスからサントリーホールのその時間帯を使わせてもらいたいとホールに連絡があり、ホールから私の親友の日本フィルハーモニー交響楽団の平井専務理事に連絡があったそうです。しかし、「リハーサルの時間を提供する理由については誰にも明かさないでくれ」ということで、平井専務理事は難しい立場に立たされました。

 音楽家は芸術家であり、自分の納得しないことを簡単に受け入れないことを平井専務理事はよく知っていたからです。しかし、「理由は明かせないがこの時間を空けてくれ」という平井専務理事の誠意をもった頼みに、楽団員は快く応じてくれました。これがホワイトハウスに伝えられると、ホワイトハウスは大変喜んだそうです。オバマ大統領の訪日2日前にそれがオバマ大統領の演説のためだとわかり、関係者はその準備のために奔走しました。

 当日は、日本フィルハーモニーのソロ・コンサートマスターの扇谷氏(ヴァイオリン)、コンサートマスターの江口氏(ヴァイオリン)、ヴィオラの小池氏、チェロの江原氏、クラリネットの伊藤氏の5人が演壇に上がり、室内楽のかたちでモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、「クラリネットクインテット(五重奏曲)」ハイドンの「ひばり」を演奏しました。会場の1,500人が30分ほどの日本フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴いて、ある種の深い洗練された空気が会場を満たすのが感じられました。そして、そうした演出をしておいたうえで、オバマ大統領が登場するという誠に絶妙なアレンジでした。

 オバマ大統領は演壇に立つ前に、楽団員たちの労をねぎらって演奏を終えた5人の演奏家と楽屋で密かに記念写真を撮ってくれたとのことです。ホワイトハウスから楽団員に謝礼はありませんでしたが、楽団員たちはオバマ大統領と写真を撮ったことが何よりも記念になったはずです。オバマ大統領は、芸術を愛する大統領でもありました。

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