『カタカナでやさしくできるリスニング』
 靜哲人著 研究社出版
1997年1月刊160ページ本体価格1,400円 ISBN4-327-44062-0
「先生,ピナバラってわかりますか?」。ホームステイに引率をした生徒が投げかけてきた質問である。「ああ,ピーナッツバターのことだろ」。「えっ?何でわかるんですか。最初聞いたとき,わたしさっぱりわかりませんでした。ステイ先の子にはマクドナルドも通じないし。本当に困ってしまいます」。と,ホームステイ当初は,自分たちが学校で習ってきた英語の音やふだんカタカナ英語で話している音と実際にアメリカの家庭で話される音との違いに,生徒たちはおたおたするばかりである。その原因を本書では,「ネイティブスピーカー同士が気楽に話す場合には,理解できる限りにおいて発音にかける労力は少ないほどいいというエネルギー節約の法則が働くために,われわれが文字からイメージする音とはかけはなれた音になっているから」と説明している。本書は,ネイティブスピーカーの気楽な発音が日本人の耳にどう聞こえるか,を主眼としている。そのために,「現実の英語音を表記する手段として発音記号ではなく,カタカナを工夫して」いる。その理由として,発音記号は「読みにくく,そして何よりも音声学の専門知識がないと読み誤ることが多いから」だという。
 以前から,時間を聞くときには,「ホッタイモイジルナ(What time is iit now?)」やニューヨークでタクシーを降りるときには「アゲドウフ(I get off.)」という方がよく通じるという民間伝説はあった。その用例を規則化しているところが画期的だと言える。
 本書は3部:パート1−規則を覚える,パート2−決まり文句に慣れる,パート3−で映画に挑戦してみる, という構成である。
 パート1で扱っている規則は13。その規則の一つ一つが,音声学の知見から実際に発話される音声現象を解析し,音声学の知識のない人にもわかりやすく解説してある。
英語の音は日本語と異なり,文字で書き表しにくいのだが,それをこの本では,文字の大きさを変えることによって解決している。しかし,この本にテープがないのが残念である。テープがないとある程度英語の音になれた人が指導者としていないと利用しにくい。この本が必要だとおもえる読者層では,本書で示す規則を学んだとしても,正しい英語の音を生成できにくいからだ。本書にも「本書を書くヒントになったのは福島高専コミュニケーション情報学科での英会話の授業です」とあり,英語をかなり正確に発音できる先生のガイドのもとで,教材として開発されたことがうかがえる。
 音声の解説の本はどうもかたくなりがちで初心者にはなじみにくい本が多かった。それを考えると,指摘した欠点があるにしてもこの本が出版された意義は大きと言える。