『英語で書いてみよう』 大津幸一著 岩波書店
1997年11月発行,全223頁,\700 ISBN4-00-500294-3
この本の前に紹介した「学校英語からネイティブ英語へ」は,「初級レベルの英語を習得し,言いたいことを何とか文法的にも間違いなく話せるようになった人にとって」と,学校文法をある程度習得した人が対象であった。その本の前の段階で使用する教材として紹介したいのが本書である。
「外国語を身につけるには,どのような勉強をしたら良いですか」という問いに対し,本書は言語学者の言葉を引用しながら「これは,(たとえば英語では)どういうのだろう?」とつねに意識して生活することです」と答えている。そして「一日ひとつでもいい,このような(体験したことを英語で表現してみる)ことをコツコツと積み上げて行くうちに,自分自身のことや身の回りのことをある程度言い表すことができるようになります」とも述べている。
これらの言葉に表されているように,本書の大きな特色は,中高校生が「あれっ,これは英語では何と言うのだろう」と思ったことをノートに書きとめ,英語で表現できるように工夫してあるところだ。本書ではその場面を,中高校生が,宮沢賢治の故郷である盛岡を出発して東京,京都,広島をめぐる修学旅行にでかける設定にしている。その場面は,旅立ちの朝,盛岡をあとにして,車内スケッチ,上野にて,上野動物園,旅の宿,朝の散歩,葛飾・柴又へ,都心を歩く,東海道新幹線の旅,法隆寺にて,奈良公園でのひととき,京都・竜安寺,鞍馬山・五条大橋,嵯峨野にて,広島の宿で,原爆ドームにてと,かなりバラエティに富んでいる。この17の場面に文法項目があてはめられている。
本書は文法の学習参考書と和文英訳の本とを合体させたものだとも言えるだろう。しかし,本書がその2つを合体させたもの以上である点は,3つあると言える。
1. 最初からおわりまでが旅行記風になっているので,英作文する和文の場面や状況を捉えやすい。
2. 英文法の説明が先生が授業でやさしく説明して調子で書かれているので,生徒が一人で読んで学習することができる。
3. 和文を英文にする際にどのように発想すればいいのか,中高校生の視点で説明されている。
この特徴を具体的に「風に吹かれて―葛飾・柴又へ」でみてみる。このセクションには6つの和文英訳の方法が示されているが,最後の柴又を去るときにノートにメモをした文がおもしろいのでそれを紹介する。
課題文:鐘が鳴っているのが聞こえる。寅さんが風の中でさよならと手を振っているのが見える。
作文の解説文:「私には聞こえる→鐘が(どうしている?)→鳴っている」「私には見える→寅さんが→(どうしている?)→さよならと手を振っている」―――このような構造の英文になります。「さよならと手を振っている」はwave good-byeと言います。「鳴る」はベルならringですが,お寺の鐘のようにゆっくりと余韻を残して鳴るものの場合は,tollという動詞がふさわしいでしょう。
英文例:I hear the bell tolling. I see Tora-san waving good-bye in the wind.
このセクションの文法のターゲットは第4,5文型であり,この英作文のあとに簡単な英文法の解説がある。そして英作文の発展問題がある。ただ,この発展問題が,せっかくのトピックとあまり関連していないのが残念である。また,文法項目はかなり押さえられているが,中学生の読者を意識したのか「仮定法」ないのも少し気になる。もちろん,それらの点を考慮しても,学習者が勉強しやすい本だとおもう。このような本を発展的学習として独力でしあげ,そしてふだんから「これは,(たとえば英語では)どういうのだろう?」とつねに意識して生活する」習慣を身につければ,英語力は自然についていくであろう。