『小学校からの外国語教育 外国語教育改革への提言』樋口忠彦他編
研究社出版 1997年2月発行,全251頁\2600 ISBN4-327-41050-0
この本を一言で紹介すると,「児童外国語教育の紹介をとおして外国語教育の改革を提言する本である」ということだ。このことは著者の多様さからもわかる。小学校で英語を教えている先生から,第二言語習得の専門家も含まれている。
小学校から外国語教育を行なうメリットはなんだろうか。本書はつぎのように答える。第二次世界大戦の反省から,文化の違いを超えた人間同士の相互理解の努力こそが核戦争の回避のための唯一のカギであり,そのために数々の異文化理解教育推進の方策が講じられることになる。つまり世界は確実に異言語教育・異文化教育強化の方向に進んでいる。それに対しわが国だけが逆行している。そのため,国際社会において期待される日本の役割に比べて,コミュニケーション能力が低い。その対策として,小学校から外国語教育および国際理解教育を積極的に進めることが必要であるだろう。そうすると,1.外国語の習得,とりわけ発音の面で効果的である,2.異文化に対して行為的・積極的な行動のとれる「発信型」の日本人を育成できるという。
児童外国語教育に対する反対論および慎重論を2つあげている。1つは,日本語を十分に習得できていない時期に外国語に接すると日本語の習得が邪魔され,中と半端な日本語しかできなくなってしまう,というものである。それに対し,本書では,この心配は杞憂であるという。なぜなら外国語の授業以外は日本語の世界に浸っているので心配ないという。
そして本書にはカリキュラムが学年ごとにこまかく記載されている。その基本方針は「聞くこと」「話すこと」を徹底的な重視である。4年生では「聞くこと」「話すこと」に限定し,5,6年生でも「聞くこと」「話すこと」を中心に指導する,となっている。また,評価と進め方も,「受験手段としての英語学習に歯止めをかけるために」という副題がついているほど,知識つめこみを重視した英語教育を避けようという姿勢が見える。この姿勢も評価できる。小学校で英語が好きだった私の娘が中学校に入ってしばらくして英語が嫌いになった。中学ではパフォーマンスの熟達より文法的知識を覚えることが要求されるようになったからだ。わたしに「不定詞の用法の違いを見分けることに何の意味があるの」とくってかかったこともあった。本書にある小学生への英語教育に対する反対論および慎重論のもう1つは「やろうとしてもうまくいくはずがない」という意見である。根拠は,中学校以降の英語教育がうまくいっていない,そして教える人の絶対数が足りない,ということである。私の関心はやはりここにある。見学した授業等から判断すると,中学の英語授業はコミュニカティブになったとはいえ,やはり知識を覚えることが優先の授業形態である。「聞くこと」「はなすこと」を中心に英語に触れてきた生徒達が,中学校の授業を受けてがっかりすることはないだろうか。
そこで,本書は中高も含めた外国語教育の改革を提言する。中学校外国語(英語)教育に期待することとして,A.入門期における音声指導を重視する,B.コミュニケーション重視の授業を進める,C.テストの出題に十分に配慮する,D.高校・大学入試を改善する,の4点である。本書では提案で終わっているが,英語教育を改善するためには,この4点を含め,小学校,中学校,高校,大学での英語教育をどう連携していくか考え,実践していくのが英語教育者に課せられた課題である。そうしないと,小学校に外国語授業が導入されても有名無実になってしまうだろう。
この稿ではとりあげなかったが,本書には小学校英語教育に関する小学校教員,保護者へのアンケート結果,諸外国における小学校外国語教育の実情,小学校における外国語教育の意義と役割,指導者の養成などの項目がある。