『はじめて英語を教える先生方へ』 和田稔監修 開隆堂 
1999年4月発行,全128頁, \2000 ISBN4-304-01156-1
 小学校英語教育A to Z シリーズの第1巻である。このシリーズは今後,国際理解学習が2冊とALTとのTTの1冊,計3冊が予定されている。
まず「外国語会話学習の基本的な考え方」についてであるが,小学校での外国語(英語)会話の指導の基本として,教課審答申等に述べられていることを次の2点に要約している。1.中学校や高校で行なわれている外国語教育を前倒しにするものではない,2.小学校段階にふさわしい学習活動を行うために子供達が積極的に参加する体験主体の学習活動を中心に行なうこと。この考えは納得できる。私は以前学習塾で講師をしていて,小学6年に児童英語教育を1年間行なった。目標は,「中学校に入ったとき,うまく英語の授業に溶け込める」ことだったので,中学の教科書を文法訳読式で教えたに過ぎなかった。この経験のためしばらくの間,児童英語教育とは,中学の準備教育という認識しかなかった。それをかえたのが小学生だった娘の英会話教室だった。そこで娘は英語を使ってコミュニケーションすることを教えられた。特に娘が気に入ったのがドラマをとおしての学習で,家で小学生にしてはかなり長い英語のせりふを一生懸命も覚えていた。そこには準備教育という考えはなかったし,娘もコミュニケーションを楽しんでいた。この考えは本書の「英語授業実践における担任教諭の役割」でも裏づけされる。ここでは小学校の英語教育で何より大切なのは,「英語の好きな子供」を育てることだという。著者の一人が教えている大学でおこなった調査では,小学校の時に何らかの形で英語を学習した学生は「英語が好き」という感情を持っており中学校で初めて英語を学習した学生に比べ,「聞いてわかる」度合いが高いと報告している。また本書は小学校に英語が導入された場合,担当する担任に対して適切なアドバイスを行なっている。受け持つ人が英語が学生時代に苦手だったかもしれないが,そのようなネガティブな気持ちで立ち向かうのではなく,自分の知っていることを教えようと,その項目を「1.アルファベット,2.英語のあいさつ,3.Thank you. Excuse me.,4.文字,5.中学英語の動詞」としている。これらは英語を教科として教える場合には不足かもしれないが,英語の先輩学習者としては十分な資格であり,「それ以上はいっしょに勉強しよう」という姿勢で出発することを薦めている。この姿勢は学習者の信頼を勝ち得るものだし,どの学校で教えていてももっていたい姿勢である。
そして「カリキュラムを編成する視点」から,今回の英語学習導入にあたり,目標や内容を示すガイドラインが全然示されないことに不安と不満があるが,本書は以前のようなnational curriculumを全国一律に押し付ける時代ではないという。そして活動・体験中心のカリキュラム編成の可能性を提案する。このねらいは英語の言葉のしくみを教えることではないので単語や文法事項などの言語材料が中心にならない。そのかわり発達段階や興味・関心をもとに子供に英語を使ってどんな活動や体験をさせるかということがカリキュラムの出発点になるといっている。つまり動物や色を表す単語を覚えるために歌を歌ったり,ゲームをするのではなく,英語を使った活動・体験をその子なりに楽しんで,その結果として何らかの言葉が習得されるということである。これは著者がかかわった研究開発指定校をとおして体験したことで,先生たちから英語の専門家ではないゆえにでてくるユニークな提案があったと報告している。
中学や高校はいまでもnational curriculumと同時に知識重視の視点に縛られていて,学習者の発達段階や興味・関心をもとにどのようなコミュニケーション活動をさせるかという視点に欠けることが多い。大学の先生も含めこの視点を学んでいくべきだと思う。
本書には,その他のポイントとして,「なぜ英語なのか」,「なぜ小学生から?」,「コミュニケーション能力重視の中学校英語教育の現状」,「小学生とはじめての英語」,「ALTとの豊かなコミュニケーション」,「学校,地域の特色を生かした英語学習」,「心を開く楽しい英語学習を」の視点がある。