中国語の漢字

漢字と漢字が違う

 中国語は日本語と同じく、漢字を使う言語だから、欧米系の言語より日本人には親しみやすい。この思いから中国語を勉強しようと考えている方はわりと多いのではないでしょうか。しかし、勉強しているうちに、見たこともない漢字や見たことがあるけれど日本語ではほとんど使わなくなった漢字と出会って、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。

 その原因は漢字と漢字の間に相違があるからです。秦の始皇帝以来、表意記号としての漢字が中国本土で一応統一されましたが、その後特に近代以来、漢字そのものは大きく変わってきました。中国語を勉強しようとするみなさんは、まずこの漢字と漢字の間の違いをはっきりと区別しなければなりません。

 私たちが身近で目にする漢字は、だいたい次の3つの系統に分けられるでしょう。

簡体字 「簡化字」とも言います。象形文字が前身だった漢字には、書き方が複雑なものが多く、常に民間からそれを簡略化しようとする動きがありました。勝手に簡略化されてしまった漢字も時々見られます。漢字を書く時と読む時の煩雑さを文字を解さない人の大量出現の重要な原因と見ていた中国政府は、中華人民共和国成立後、文字改革委員会を設け、漢字の簡略化政策を採りました。1964年文字改革委員会が公布した「簡体字」が、「正字」として社会に通用し、学校教育も簡体字によって行われています。そのため、簡略化された前の繁体字を知らない若者が増えています。繁体字と比べると、筆画が少なく、構造が簡単であることが簡体字の特徴です。例えば、「漢」「豐」「穀」はそれぞれ「」「」「谷」に簡略化され、だいぶ書きやすくなりました。しかし、あまりにも簡略化しすぎると、漢字そのものの美しさや「一目瞭然」を特徴とする漢字形態の情報の豊富さは損なわれることも確実であり、知識人からの反発は強くなります。実際のところ、1977年文字改革委員会によって公布された「第二次漢字簡化方案」は実施されてからまもなく廃案となりました。現在、簡体字は主に中国大陸・シンガポール・マレーシアなどで広く使われています。

繁体字 簡略化をほとんど加えられていない漢字のことです。書き方は煩雑ですが、漢字の古典的な美しさやバランスのとれた均整さを保つことはできます。繁体字の使用範囲は主に台湾と香港あたりでしたが、改革開放政策が実施されてから、香港文化の大規模な「北上」と「国際化」の波の押し寄せにより、店の看板や映画・テレビドラマの字幕などに繁体字復権の動きが現れてきました。中国政府はそれを歴史と文化の逆戻りと見なし、取り締まり措置を強化しています。一方、香港の中国への回帰及び大陸と台湾との間の経済・文化交流がますます盛んになっている影響で、これらの地域で簡体字を勉強する人々も増えています。

日本語用の漢字 中国語の簡体字を見て、ある程度の違和感を覚える日本人は多いと思いますが、実際のところ、日本語においても一部の漢字は簡略化されています。いわゆる「略字」、つまり日本語の簡体字です。しかし、日本語の略字と中国語の簡体字の形は、全く同じものもありますし、異なったものもあります。さらに、わずかな違いで異なっているものもあります。


1つの漢字に3つの顔

 上述したように、一つの漢字は時に3つの顔を持っていることがあります。簡体字・繁体字と日本語漢字の区別は、次の3つのグループに分けられます。あくまで例示なので、該当する漢字はほかにももちろんたくさん存在しています。どうぞ、みなさんもじっくり比べてみて、しっかりと覚えてください。

●日本語の略字と形が一致している簡体字 

日本語漢字

簡体字

微妙なところで異なっている簡体字と日本語漢字 

日本語漢字

簡体字

形がそれぞれ異なっている簡体字・繁体字と日本語漢字 

日本語漢字

簡体字

繁体字

 中国語を勉強しようとする日本人、日本語を勉強しようとする中国人、いずれも、漢字の持つこの3つの顔に習熟し、区別できる力を身につけなければなりません。ややこしい作業と言えばややこしいですが、近道はなさそうですね。


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